【Webクリップ】ヘディングに関連する潜在的リスクへの対策が進んできた

2022-08-07

潜在的なリスクの排除が目的

 イングランドサッカー協会(FA)が、12歳以下の選手たちのヘディングを禁止するルールの導入を発表した。成長期におけるヘディングに関連する潜在的リスクを軽減することが目的だ。

 ここで想定されているリスクはボールを頭で扱う、いわゆるヘディングに限定されない。ヘディングを試みた際の頭同士、あるいは肘と頭の接触による怪我や、ジャンプ後の着地時のものなど、ヘディング関連のプレーが広く想定されている。そのためルールとしても、単にヘディングだけでなく、それに関連するプレーを広く禁止すると予想される。

ヘディング禁止の経緯

 ヘディングはかねてから問題視されており、イングランドでは2020年に、18歳以下のトレーニングにおけるヘディングが制限されている。これは2019年にスコットランドの研究で、元サッカー選手の認知症発症率が同年代と比較して高いことが発表されたことを受けての判断だと思われる。

 サッカー以外に目を向けると、アメリカンフットボールでは2000年代には既に議論されていた。2005年辺りから、脳震盪を繰り返してきた元選手が深刻な後遺症に悩まされていることが公になっていた。そして2013年には、脳震盪が長期的に脳機能に与える影響をNFLが隠匿し、選手を保護しなかったとして、約4500人のNFL(米プロアメリカンフットボールリーグ)の元選手たちが集団訴訟を起こしている。
 アメリカではこうした流れから、米国サッカー協会に対しても、育成プログラムの変更等をめぐって、訴訟が起こされている。その後、協会が要求を受け入れ、2016年に10歳以下のヘディング(練習・試合ともに)が禁止された。

 日本でも2021年、15歳以下のヘディング習得に関するガイドラインを発表した。これはヘディングを”禁止する”のではなく、”正しく恐れる”ことに軸足を置いている。リスクを理解しつつ、年齢に応じて段階的にヘディングのトレーニングを行うことで、安全な技術習得を目指したガイドラインになっている。ただし世界的な流れを受けて、日本も禁止に舵を取る可能性は十分にあるだろう。

”試合”で禁止になったことがポイント

 これまでは練習の制限だったが、試合で禁止されることによって、よりプレーに影響が出る可能性がある。パッと思いつくのはロングボールの減少。ヘディングや競り合いによる反則を避けるために、地上パスの選択が増えることが予想される(逆にフリーキック獲得を狙う可能性もあるが)。

 その他には得点パターン、および得点自体の減少が考えられる。守備側からすれば、ヘディングを利用した攻撃が減ることで守りやすくなるのではないか。たとえばクロスからのヘディングがなくなると、サイド突破されてもハイボールのクロスへの対応を劣後し、グラウンダーに専念することができ、結果的に守りやすくなる可能性はある。

 ルール変更により求められるプレーが変わると、求められる選手像も変わる。背が高くヘディングの上手い子や質の高いクロスを供給できる子がスタメンを外れるかもしれない。逆に中に切れ込んでシュートを打てる子が重宝されるかもしれない。そうした対応が、選手自身や指導者に必要になるルール変更だと考えるべきだろう。

 とはいえ、そもそも育成年代においてヘディングの頻度はそこまで高くないように思われる。キック力が弱くロングボールが蹴れなかったり、ピッチが小さかったりするからだ。そのためヘディング禁止によるプレーへの影響は、全く無いとは言えないものの、サッカー自体を変えるほど大きいとも考えにくい。いずれにせよ、選手の安全のためには必要なルール変更であるため、前向きに受け入れていきたい。

参考

  • スコットランドでのサッカー選手と認知症に関する研究
  • アメリカのヘディング禁止の流れ