【ニュースクリップ】日本サッカーの視聴環境が変わっていく

概要

  • サッカーの放送&配信事情に関する村井満氏(前Jリーグチェアマン)のロングインタビュー。
  • アジア最終予選の放映権は、金額面でテレビ局が契約できなかったため、DAZNが代わりに配信した。
  • 同じサッカーでも、Jリーグと日本代表では放送・配信の論理が異なる。
  • ユニバーサルアクセス権の議論は進めているが、イギリスと日本、サッカーと他のスポーツとの差異を比較しながらの慎重な議論が必要。

メモ

 2022年W杯カタール大会のアジア最終予選、アウェー戦が日本国内のテレビで放送されなかったことは記憶に新しい。それを受けて前Jリーグチェアマンの村井満氏が日本サッカーの放送・配信事情についてインタビューに応じたが、詳細に語っている部分もあり一読に値する。

アウェー戦が放映されなかった理由

 まず重要なのが日本国内のテレビ局が放映しなかった理由だ。一説にはDAZNがテレビ局を排除したと言われるが、実際には金額面でテレビ局の契約が困難になったことから、資金力のあるDAZNが代わりに放映権を獲得したとのことだった。これは放映権の金額に関する報道を見ても、納得できる理由であり、本件は「ダゾーンが救ってくれた構図」と捉えるのが適切だろう。
 その上で、村井は問題の本質として「日本のテレビ地上波放送を手掛ける各局がとても支払いきれない金額になった」ことを挙げている。おそらくポイントは日本のテレビ局の成長とサッカー(広くスポーツ)の価値向上のスピードが一致していないことだろう。つまり、サッカーの価値向上が速すぎて、もはやテレビ局の資金力では支払えなくなっているのだ。Jリーグと共にサッカーの価値向上に努めてきたにもかかわらず、このような事態になってしまったのは皮肉な結果と言えよう。

Jリーグと日本代表の構造的差異と放映環境

 そのような問題を踏まえつつ、国内のサッカー視聴環境にも触れており、Jリーグと日本代表は構造的に異なると村井は述べる。それらは日常/非日常、わが町/国民的かで異なり、前者はインターネット配信で狭く、後者はテレビ放送で広く届けることが適切だと考られる。
 個人の妄想になるが、地方クラブ(さらにはユース世代も)の試合は、Pixellotのような自動カメラで極限までコストカットして配信するのもアリだと思う。実況解説はサポーター等にお任せすれば、新たなクラブ関与の形も生まれる。

ユニバーサルアクセス権の議論

 本インタビューの最後のポイントとして、ユニバーサルアクセス権について触れられていることだ。日本代表戦はどんな人でも見られるべきとの意見もあり、筆者も理想としては同意見だ。その際に参考になるのがイギリスのユニバーサルアクセス権であり、同国では1990年代から政府が指定するイベントの無料放送が義務付けられている。
 しかし、これは無条件に日本でも導入できるわけではなく、慎重な議論が必要だというのが村井の見解だ。税金を投入するか、放映権の契約をテレビ局に限定する等の対応が考えられる。ただし、その前提には元々の日英の放送環境の差異の考慮が必要だ。例えばイギリスは無料放送するテレビ局が少なく、テレビ放送にお金をかけることに日本よりも抵抗が少ない可能性があるなど、環境や文化の違いを踏まえながら議論を進めていくのが望ましい。