【書評】コンテンツ発信に留まらないボイステック

はじめに

 これは音声がもたらす社会変革の予兆について書かれた本で、著者は音声プラットフォームを運営するVoicy代表の緒方憲太郎さんです。最近は若者のラジオリスナー増加や、クラブハウスのブームなど、音声に関する話題がポツポツと出ています。実際、自身はラジオリスナー寄りの人間ですが、盛り上がりはひしひしと感じています。
 そんな関心もあって、もっとラジオやVoicy等の音声コンテンツに限定した話かと思っていました。しかしボイステックは非常に広い概念であり、本書でも多様なテーマが扱われています。なのでラジオ等の音声コンテンツの技術だと思っている人にこそ読んでほしい一冊です。

ボイステックの広いカバー範囲(発信・受信・分析)

 私自身、この本を読んでの1番の発見は、ボイステックのカバーする範囲が広いことでした。この本を買ったときは、1人のラジオ好きとして、今後のラジオを始めとする音声コンテンツがどのように変わっていくのかが気になっていました。著者の専門とする音声プラットフォームについても取り上げられていたため、尚更そう思っていました。
 ただ実際に読み進めると、音声コンテンツの発信だけに留まらないボイステックの実態が見えてきます。ボイステックはAIスピーカーの音声認識などの受信技術や、音声データのマーケティング活用などの分析技術も包括する概念でした。そのようなボイステックの知らない一面を知ることができます。

分析技術向上により音声の検索が可能になった

 最も興味深かったのが音声データの分析領域。近年ボイステックに注目が集まっている理由の一つが、解析技術の進歩です。以前は音声をただ”蓄音”していただけでしたが、ここ数年で音声データを機械的に”理解”できるようになりました。

 音声データがテキスト化されて理解できると嬉しいのが、検索が可能になることです。これによってデータとしての扱いやすさが格段に上がりました。実際、自身でラジオ配信していた時の編集が難しかった経験があります。それはいつ何を喋ったのかが分かりにくことが原因で、特定の音声を抽出するために聞き直す必要があり、どうしても時間がかかります。それが簡単に検索で見つけられるようになるのです。
 将来的にはGoogle広告のようなマネタイズの源泉になり得ます。さらには音声マーケティング領域の技術進歩も期待されており、ラジオの音声広告などの形が変わっていくかもしれません。

 その他にも音声、つまり聴覚の活用が進むことも期待されています。高齢者等の視覚に問題を抱えている人にとって、音声は非常に重要です。既に文章の読み上げや音声操作は身近な存在になりつつありますが、音声データの分析が進むことで、それらがより一層便利になる可能性を秘めているのです。

音声コンテンツの特徴

 音声コンテンツの発信領域としては、音声コンテンツに対するニーズが考察されていました。中でも自身の実感とも合致するのが、画面疲れによる離脱欲求です。仕事でPCを見て、プライベートでもスマホが側にある生活においては、目が休まる時間がありません。そんな中で目を休めつつ息抜きをするために、音声コンテンツが適しているのは、納得感がありました。

 さらに音声コンテンツの今後を考える中で、興味深い音声の性質が一覧性の低さです。たとえばレストラン情報を検索したいとき、スマホであればスクロールで多くのレストランを見ることができますが、スマートスピーカーからは数件しか聞くことができません。そのため文字以上に音声は情報の整理が重要になります。
 たしかにラジオ番組の魅力の一つに、パーソナリティの楽曲紹介がありますが、情報を絞ることで聞き手の満足度を高めている一例と言えます。ただ逆に言うと網羅性が低く、恣意的に情報が選別されている可能性があるので、注意が必要な部分でもあります。

おわりに

 発信や分析に加えて、音声入力等の受信領域の技術についても触れられていました。自動字幕生成などのエンタメに限らず、自動議事録作成や、診察記録作成など、業務効率化の面でも発展が進んでいるようで、BtoBビジネスとしても参考になります。

 日頃からボイステックに馴染みのある人はもちろん、「ボイステックなんて来ないでしょ」と思ってる否定派の人にとっても、意外性のある一冊です。